ハードボイルドだじょう~・・・Lou Rowls
ハードボイルドは男の美学だ。
俺はボルサリーノを目深にかぶり、トレンチコートの襟を立てて、夜の街をさ迷っていた。
レースのカーテン越しに明かりが漏れている。
浮き出たカーテン模様はキティちゃんだ。
ゴルゴ13愛用のシンボルマークだ。
ハードボイルドを感じた俺は店の名前を確かめた。
「BAR婆」
いかしてるじゃねえか。
この年になると、若い姉ちゃんにべたべたされるのも飽きる。
婆ちゃん相手にじっくり酒が飲みたくなるものだ。
俺はドアをこじあけて中に入った。
修羅場をくぐってきたとおぼしき婆ちゃんがカウンターの中に居る。
こいつあ面白くなりそうだ。
初めての店では、俺はいつもマティーニを頼むことにしている。
海千山千らしきこの婆ちゃん、ひょっとしたらKGBの生き残りかも知れず、もしそうなら、シェイクするときピアスを混ぜるかもしれない。
危険だ。
あまりにも危険すぎる。
「ちょっと待ってぃ~に」と言われたら、立ち上がれなくなるほどのダメージを受ける。
俺が逡巡していると、婆ちゃんがメニューを差し出してきた。
「丸刈り~タ」1000円。
「角刈り~タ」1000円。 とある。
俺ははっと気がついた。
ひょっとしてこの店は BARBER か??
「お客さん、あたしゃあねえ。李(り)と言って、若い頃は香港で鳴らした姐御だったんだよ。いちゃもんつけるなら出てっておくれ~」
そう言って着ていたコートの裏地をぱっと開いて見せた。
くそ~あの有名な婆婆李だったか~!!
怯(ひる)んだのはたしかだが、ハードボイルドに生きる男が尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。
気を取り直した俺は何食わぬ顔で言った。
「メニューにないものを注文してもいいか? スピリッツベースのパンチだ~」
蒸留酒に柑橘類の果汁を混ぜたカクテル酒。(ウィキ)
そんなわけで、俺の頭はパンチパーマになったのだ。
、
モッズ最盛期の60年代半ばなら、泣いて喜びそうな婆~ジョンを見つけた。
ルー・ロウルズの「魔女の季節」。
オルガンの音がたまりません。
|