洋楽と脳の不思議ワールド

60年代のマイナーなビート・バンド紹介と駄洒落記事、書評に写真がメインのブログです。

ハードボイルドだじょう~・・・Lou Rowls

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ハードボイルドは男の美学だ。

俺はボルサリーノを目深にかぶり、トレンチコートの襟を立てて、夜の街をさ迷っていた。



レースのカーテン越しに明かりが漏れている。

浮き出たカーテン模様はキティちゃんだ。

ゴルゴ13愛用のシンボルマークだ。

ハードボイルドを感じた俺は店の名前を確かめた。



「BAR婆」


いかしてるじゃねえか。

この年になると、若い姉ちゃんにべたべたされるのも飽きる。

婆ちゃん相手にじっくり酒が飲みたくなるものだ。


俺はドアをこじあけて中に入った。

修羅場をくぐってきたとおぼしき婆ちゃんがカウンターの中に居る。

こいつあ面白くなりそうだ。


初めての店では、俺はいつもマティーニを頼むことにしている。

バーテンダーの腕の良し悪しはマティーニつくりで決まるからだ。


ウォッカマティーニをステアせずにシェイクでくれ」とジョームズ・ボンドの決め台詞を吐こうとして、俺は思いとどまった。

海千山千らしきこの婆ちゃん、ひょっとしたらKGBの生き残りかも知れず、もしそうなら、シェイクするときピアスを混ぜるかもしれない。

そんなマティーニを差し出して「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題ね」とシェイクスピアの台詞で毒殺されたら死んでも死にきれない。


危険だ。

あまりにも危険すぎる。


「ちょっと待ってぃ~に」と言われたら、立ち上がれなくなるほどのダメージを受ける。


俺が逡巡していると、婆ちゃんがメニューを差し出してきた。



丸刈り~タ」1000円。
「角刈り~タ」1000円。

とある。


俺ははっと気がついた。

ひょっとしてこの店は BARBER か??



「お客さん、あたしゃあねえ。李(り)と言って、若い頃は香港で鳴らした姐御だったんだよ。いちゃもんつけるなら出てっておくれ~」

そう言って着ていたコートの裏地をぱっと開いて見せた。



























くそ~あの有名な婆婆李だったか~!!

怯(ひる)んだのはたしかだが、ハードボイルドに生きる男が尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。





気を取り直した俺は何食わぬ顔で言った。

「メニューにないものを注文してもいいか? スピリッツベースのパンチだ~」







蒸留酒に柑橘類の果汁を混ぜたカクテル酒。(ウィキ)


















そんなわけで、俺の頭はパンチパーマになったのだ。











モッズ最盛期の60年代半ばなら、泣いて喜びそうな婆~ジョンを見つけた。

ルー・ロウルズの「魔女の季節」。

オルガンの音がたまりません。