洋楽と脳の不思議ワールド

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夏目漱石の歴史幻想小説「幻影(まぼろし)の盾」・・・Joan Baez



大正6年(1917年)から大正8年(1919年)にかけて岩波書店から刊行された漱石全集。

 

本文13巻+別巻1冊からなる14巻本。

 

天金と言うのが時代を感じていいね。

 

旧字旧仮名が好きなので、この全集を買い求めたが、解説というものがないし、昭和10年版の全集が以後の底本とされているので、新しい版で読むことをお勧めする。

 

第2巻には、「倫敦(ロンドン)塔」「カーライル博物館」といったエッセイのほかに、英国留学時代の土産とも言える「幻影の盾」「薤露行(かいろこう)」の創作2編が収録されている。

 

英国を舞台にした2作品ともあまり知られていないと思うので、順次採り上げていこう。



今日は「幻影(まぼろし)の盾」だ。

 

アーサー王の時代に設定されているが、ウォルター・スコットの「ラマモアの花嫁」に触発されて創作したものだという。

 

ボクはウォルター・スコットを読んでないので、受け売りだが。



隣り合った国、白城の騎士ウィリアムと夜鴉城の姫君クララは恋仲だ。

 

突然両国の国王が不和になり、戦争で決着をつけることになる。

 

ウィリアムは騎士の矜持として戦をしないわけにはいかないが、恋人の城に討ち入る訳だから苦悩する。

 

見かねた友人が一計を案じ、クララ姫を助け出して船に乗せるという。

 

そして2人で南の国へ逃げろというのだ。

 

姫が乗っていたら赤旗を、乗っていなければ白旗を掲げる合図を取り決める。

 

トリスタンとイゾルデみたいな話だ。

 

落城寸前、海に漕ぎ出してきた船には白旗が翻っている。

 

絶望したウィリアムの目には、燃え落ちる城の中にクララが見える。

 

焼け出された馬がウィリアムの元に駆けて来、彼がその馬にうちまたがると、「南の国へ行け」という何者かの声がして馬の尻をしたたかに打つ。

 

 
「「呪われた』」とウイリアムは馬と共に空を行く・・・・只(ただ)呪ひ其の物の吼(たけ)り狂うて行かんと欲する所に行く姿と思へ」

 

 
騎(の)り潰した馬の鞍に腰をおろしたウィリアムは、林の中にいる。

 

林の中の池そばの岩の上には不思議な女がいて、楽器を手にして歌っている。




「岩の上なる我(われ)がまことか、水の下なる影がまことか」
「恋に口惜(くや)しき命の占(うら)を、盾に問へかし、まぼろしの盾」



ウィリアムは不思議な盾を持っている。

 

4代前の先祖が北の巨人と戦った際、彼を斃して手に入れたもだ。

 

盾の面にはメデューサのような浮き彫りがある。

 

巨人が先祖に語ったことによると、・・ここ名調子なので原文を引用する。

 

「火に溶けぬ黒鉄(くろがね)を、氷の如き白炎に鋳(い)たるが幻影(まぼろし)の盾なり・・・百年の後、南方に赤衣(せきい)の美人有るべし。其(その)歌の此(この)盾の面(おもて)に触るるとき、汝の児孫盾を抱いて抃舞(べんぶ=喜びのあまり、手を打って踊るここと)するものあらんと・・」
汝の児孫とは我が事ではないかとウィリアムは疑ふ。」



女は「懸命に盾の面を見給へ」と言う。

 

ウィリアムがひたすら凝視(みつめ)ていると、船が現れ、赤旗を掲げている。
クララだ~!
そこは南の国だ。
2人はひしと抱き合い、熱い抱擁を交わすのであった。

 

が、ここは盾の中の世界なのである。

 

「而(しか)してウィリアムは盾である」



こうした歴史幻想小説漱石が手を染めていたというのはとても面白い。

 

盾の秘密について少し込み入った話を書くつもりでいたが、ブログで踏み込んでもしようがないと思い直したので、いつも通り、作品の紹介ということになってしまった。









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今日の花はサツキです。

 




洋楽を聴き始めた小学6年の終わりから中学にかけて、ボクはジョーン・バエズボブ・ディランも聴いていたのだ。
すぐに興味を失ったので2人ことはよく知らない。

 

しかしこの映像の2人には心温まるものがある。

 

Joan Baez - Diamonds and Rust